歯科正則治療の勧め

咬合崩壊の治療

咬合崩壊の治療

2017年02月16日

1) 下顎関節突起の中心位への整復 : 口外描記装置で描かれたPantographは前方運動軌跡と側方運動軌跡が2つに分かれています(資料67).


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しかし, 口腔内では, 顆頭の中心位から2/3の範囲では, 不可分な1本の曲線です(資料68). 


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2) 中でも,歯科医療で重要な前歯部のOver Bite量に匹敵する切歯路の長さは4.0 mm程度で, この範囲の中心位から前下方向のPantographは全員一本の直線です(資料68).


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3) 1978年に田中良種先生が提唱されたImmediate Side Shift Movement : ISS (下顎運動の水平回転軸方向への遊び) をゼロに解消する術式を行えば, 確実にISSは解消します.

 

4) 咬合性外傷の原因は, ISSの存在です. ISS=0にするためには, 変曲点を確認し, 顆頭中心位を回復し, 適正な咬合高径を回復して, その結果, 開咬になった前歯・小臼歯部を成人咬合矯正する必要があります.

 

5) これを実施している所は世界中には私の所以外には実在しないと思われます. (資料16「正則歯科医療のご案内」=41,42,44,58,63,66,74,76,78,80,81,82,83,84,113頁参照)

 

6) その結果,  Bennett Movementと呼ばれる下顎の左右方向の回転運動に伴うPantographの変化は, 顆頭間距離が100mm120mmの範囲では,Compassで半径50mm, 55mm, 60mmの円を描いても, 切歯路に相当する45mmの範囲では, 一直線で, その違いは現れないため, 咬合器の顆頭間距離をS,M,Lなどと調整する必要がなく, 変更しても無意味です(資料38).

 

7) ISS=0になると, 歯ぎしりが無くなり, 咬合はWide Centric Occlusion, Point Centric Occlusionになります(資料69).

 

8) 以上のことから, 3次元6自由度のPantograph Tracing, 必要がなくなり, 1次元2自由度のPantograph Tracingで間に合うことが分かり, 歯科医が1時間費やしていたPantograph Tracing法ではなく, 歯科衛生士が15分間で描けるQuick Pantograph Tracing法を, 私は1990年に考案しました(資料70-1,2,3,4).  Quick Pantograph:QPtgを描くと, 簡単に顆路角を測定できます.


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9) Quick Pantographを描くと, 顆頭が亞脱臼している場合は, 変曲点が現れますから, そこがその時点の顆頭中心位であり, その咬合高径が適切な咬合高径です. (資料71)


資料71

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左上の図は, 確実に間違いです.  右図で見ると, 明らかな通り, 4mmのズレで, 左の図にある角度の付いた線の隔たりは発生しません.


10) 新潟大学歯学部の河野正司先生等の咀嚼筋活動電位の研究結果から, 切歯路角の咬頭傾斜角に及ぼす影響・効果は, (資料72-1,2) にある通りです.


資料72-1,2

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11) その研究成果から, 鋭利で歯切れが良くて, 咬合干渉が発生しないようにするは,Incisal Guidance Angle=切歯路角 (資料73)Angle of Eminentia=前方顆路傾斜角=顆路角よりも1015%大きく, Lateral Guidance Angle=側方誘導路角(資料74), 反対側の顆路角に等しいのが, 最も良いことが分かっています.


資料74

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12) 確実な側方誘導路を付与するためには, 上顎犬歯, 第一小臼歯部の側方離開誘導が大切です.  上下犬歯部のDistalのガイドでは2.0 mm程度の側方離開誘導しかできないため, ダメで,  45mm程度の側方離開誘導ができるMedialガイドが望ましいことが明らかです(資料75).


資料75

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D- ガイドの図は, 大きく間違っています. 追って, 訂正します.



13) 咬合高径の回復 : 顆頭の位置がQuick Pantographの変曲点に相当する位置に整復されると, そこで咬合高径をWillisの法則(資料76)を参考に決定し, 回復します.


※資料76

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14) 実際に咬合崩壊した症例を, 下顎位を中心位に咬合回復して, 咬合高径も回復して, 成人咬合矯正して, ISSを解消してゼロにすることによって,  Quick Pantograph Dataを利用したWax Cone Techniqueで歯冠修復し, 鋭利で咬合干渉のない簡単な処置として咬合の再構成治療を実施した3例を紹介します.

 

15) この症例1, 資料16「正則歯科医療のご案内」の80頁から83頁にあります.  60才女性で, 唯一咬めていた右上第一大臼歯が痛くて咬めなくなり, 受診されました. 


度々の治療の結果, 咬合が崩壊して, 臼歯部では咬む所が少なくなり, 前歯部で咬む習慣がつき, 下顎全体が前方に転位して, 「出っ歯」状態になりました.

 

16) それを治療するに当たり, まず咬合高径が低下して, 咬合崩壊して下顎が前方転位した状態を, 下顎を中心位に整復し, 咬合高径を13mm高めた状態の咬合関係を安定させるために,  Anterior Jigと呼ぶ前歯部のResin Blockで下顎の位置を固定しました.

 

17) その咬合関係で, まず


[1] 下顎左側にインプラント2本を植えて仮歯を作り


次に

[2] 右上第一大臼歯を抜歯すると同時に, インプラント5本を植えて仮歯を作り


さらに

[3] 左上にインプラント4本植えて, 仮歯を作りました.

その結果, 前歯部は開咬になりましたが, 臼歯部は直ぐに咬めるようになりました.

 

18) 時間切れで, 重症歯周病に罹った上顎の左右犬歯の抜歯とインプラント植立を1週間後の2001227日に延期して実施しました.

 

19) さらに, その1週間後の200136, 開咬になり,まったく咬めなくなっている前歯部の矯正を始めました. その前に, 正確な下顎中心位に咬合を再度整復した結果, さらに, 咬合高径は2 mm高くなり, 前歯部は15 mmの開咬になりました.  そこで, 上顎前歯部の隣接面をSlice Cutして, 即刻前歯部の口唇圧による舌側矯正を始めました.

 

20) しかし, 上顎左側第二大臼歯部の歯槽骨が挺出状態で, 下顎とのスペース: クリアランスが全くないため, 下顎第二大臼歯部の仮歯の咬合面に毎週0.7mmの速度でResinを追加して, その圧迫刺激で歯槽骨を圧下矯正し, 上顎左側第二大臼歯部に6mmのクリアランスを作り, 81日後の2001626日にスパイラル3本を植えて仮歯を作りました.

 

21) 36日の2週間後の321日からは, 上顎前歯部の舌側への矯正を透明な弾性ゴムひもであるPower threadで始めました. その結果, 9週間後の2001 515日には, 上顎前歯部は15mmの開咬が治り, 下顎前歯部と接しました.


しかし, 患者の側貌は上下顎前突症で, 依然として「出ッ歯」なため, 下顎右側中切歯を間引き抜歯して, 下顎前歯部の前突と捻転を矯正することにしました.

 

22) 11ヵ月後の2002416, 前歯部の矯正は終わり, 前歯部には臼歯離開咬合を保証できる3.5mmOver Biteが獲得できました.


その結果を受けて, 本人の都合もあり, 十分な保定期間を待ち, 2002109日に最終歯冠修復が完了しました.


最終歯冠修復物は, 一切の咬合干渉がありませんから, 無調整で, 製作された, そのままの形で即時に合着が完了しています.

 

23) Cephalogram: 頭部X線規格撮影の分析結果では, 下顔面高: Facial Heightは術前の44度から, 術後は正常値の49度になりました. 同時に側貌:Profileは, 写真に見る通り, 「出っ歯」が治り, 上品な側貌になりました.

 

24) 診療に費やされた期間は, 2001220日から, 2002416日までの動的矯正期間と,  2002930日までの安静期間, その後, 20021011日までの11日間の歯冠修復期間です.

 

25) 患者は中々リコールには応じず,  62ヵ月後の20081224日を最後に受診していません. しかし, 62ヵ月後の状態を見ると, Splintなどは一切使用していないのに, 62ヵ月間には変化を認めません.


前歯部は上下ともに1歯ずつ独立していて, 連結固定はしていませんが,  6年間安定しています. この症例は資料16102頁のCase No. 165です.  5,112,024円支払いました.

 

26) 第2症例は, 資料1684,85頁の59才女性で, 咬合崩壊して, 下顎関節が閉じ過ぎになり, 関節突起が後上方向に脱臼して, 重篤な顎関節症状を呈していたものです. 下顎位を中心位に整復し, 咬合高径を回復して, 高めて咬合を再構成した結果, 資料に見られる通り, 良好な安定した結果が得られています.

 

27) 第3症例は55才男性です(資料77-1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11).  2012114日初診です. 初診時の所見は1枚目の写真に書かれている通りです. 2週間後に診療を始めました. Anterior Jigで下顎中心位を回復し, 咬合高径も回復して, さらに, ISSを解消するために#15,24A-ContactLateral Guidanceを作りました.


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28) その4週間後の327, 臼歯部にClearanceができたため, 下顎左右第二大臼歯部にSpiral4本植えて, 即時に咬合させました. #45の舌側傾斜を矯正しています. さらに, 本格的な矯正を開始するのに先立ち, Set Up Modelを作り, 間接法のBracket Positioningを決めました. 1ヶ月後の428, 本格的な矯正を開始しました.


29) #45は矯正が終わり, さらに咬合高径を高めて, 前歯部の挺出矯正を進めました.  2013122, Over Biteが回復しつつあります. 本格矯正を開始して, 11ヶ月後の2013323, 矯正を完了しました.

 

30) 323日の矯正終了から4ヶ月間の安静期間を待って, 最終的な歯冠修復を完成させました. 歯冠製作物は歯科技工士が製作した, そのままの形で合着されています. その後, 術後5ヶ月と, 33ヶ月が経過した2016614日の経過観察では, 安定した咬合関係が維持されています.

 

31) アメリカのPeter E. Dawsonと呼ばれる高名な学者が唱えている「咬合高径は, 高めても, 低めても, 6ヶ月〜1年以内には, 元の高さに戻るから変更しては, ダメである」という咬合高径の平衡理論は, まったくの誤りであることが以上の3症例でも, 明らかです.

 

32) 日本歯周病学会や日本口腔インプラント学会や日本顎咬合学会の定義の誤りも明らかです. それらの学説や定義を決めている人々は, 臨床を真面目に観察しないまま, 頭の体操宜しく, 思案ばかりしている様子です. 彼らは等しく現実離れしています.